労務ニュース スマイル新聞

2016年4月23日 土曜日

平成28年4月23日第408号

従業員のミスに会社はどこまで責任を負わせられるのか?

1.運送会社において、労働者が交通事故を起こした場合
運送会社の従業員が、業務に関して、交通事故を起こし、第三者に損害を加えた
とき、会社は、使用者責任(民法第715条第1項)により責任を負うことになります。
しかし、会社の経営者としては、従業員のミスで交通事故となったのに、全て
会社が責任を負うのは、納得できない、という方も多いのではないでしょうか。
これについて判断した最高裁昭和51年7月8日判決をご紹介します。

2.事案の概要
石油等の運送・販売会社の従業員が、タンクローリーを運転していたところ、
追突事故を起こした。会社は、追突された車両所有者に車両修理費用等を
支払ったので、従業員に対して、求償・損害賠償請求をした事案。

<最高裁の判断>
「使用者が、その事業の執行につきなされた被用者の加害行為により、直接
損害を被り又は使用者としての損害賠償責任を負担したことに基づき損害を
被った場合には、使用者は、その事業の性格、規模、施設の状況、被用者の
業務の内容、労働条件、勤務態度、加害行為の態様、加害行為の予防若しくは
損失の分散についての使用者の配慮の程度その他諸般の事情に照らし、
損害の公平な分担という見地から信義則上相当と認められる限度において、
被用者に対し右損害の賠償又は求償の請求をすることができるものと
解すべきである。」

3.報償責任の法理というもの
最高裁の判断の根底には、報償責任の法理(事業活動において利益を得ている
使用者は、その収益活動から生ずる損害については責任を負うのが公平)がある
とされます。これにより、使用者の労働者に対する損害賠償及び求償権の行使を
一定の割合で制限されることになります。
制限割合については、一律の判断基準はありません。判例に列挙されている
事情を総合的に見て判断されます。ちなみに、上記事案においては、会社が、
石油等の運送・販売という危険を伴う事業であること、会社が任意保険に加入
していないこと、労働者が特命により臨時的に加害車両を運転して業務中
発生した事故であり労働者の過失が重大なものでないこと、労働者の勤務成績が
普通以上であったことを考慮し、労働者に対し、求償ないし賠償請求できる
範囲は、信義則上損害額の4分の1が限度であるとした原審の判断を
相当として認めています。

投稿者 イケダ労務管理事務所 | 記事URL

2016年4月 8日 金曜日

平成28年4月8日第407号

自己申告した労働時間を後日否定した残業代請求

人事担当者からこのような相談がありました

退職する従業員から過去の未払い残業代の請求をされています。残業はすべて
自己申告制となっており、本人からの申告に基づき適正に支払ってきました。
今回の従業員の言い分は「会社と上司からの売上アップ、経費削減の
プレッシャーが強く、とても実際働いていた時間を申告できなかった。」というものです。

会社としては適正な申告をすれば支払っているのにそれをしなかった従業員に
問題があると考えていますが、支払わなければなりませんか?

結論からいいますと、実際に残業をしていて未払い残業があった場合
「適正申告しない従業員が悪い」という考え方は通用しません。

申告しなかったことは「自己責任」であり、後日残業代を請求しても「会社側に
支払い義務はない」と考えてしまいそうですが、実際に時間外労働があって
残業代が未払いであるなら未払い残業代の請求権は発生します。

遡及できるのは最大過去2年分

労働基準法第115条には、賃金(退職手当を除く)の請求権は2年間と定められています。
従って、時間外労働賃金の時効は権利発生から2年となり、従業員側は
最大過去2年分の残業代遡及請求が可能です。この請求において
在職中か否かは問いません。

過去の労働時間の把握の仕方

ただ、過去の労働時間が正確に把握できていなければ実際に残業代の算出が困難です。
労働基準監督署でも客観的な記録がなければ支払命令などは出しようがありません。

このケースでは、日報として退社時刻近くに本社にメールを送っていました。
そこでこれを客観的な記録として労働時間を把握することが出来ました。
手書きの出勤簿では早く退社したことになっていたのですが、
実際残業していたということがこの記録から確認されたのです。

ほかにも百貨店などの入館退館記録、従業員本人による手帳への
記録なども労働時間の記録として認められることが多いようです。

自己申告制を採る企業の場合、手間はかかりますが日々の勤怠を適正に
把握していくことでトラブルを防止することができます。 
(スマイルグループ 社会保険労務士)

投稿者 イケダ労務管理事務所 | 記事URL

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